銃の事は、GUNSLINGER GIRLに学べ

この前、漫画を読んでいたらオートマチックピストルの描写がちょっとアレなのを見つけてしまいとても悲しい気持ちになりました。具体的に書いちゃうと「チェンソーマン」なんですが「それは勘弁してください」って感じだった。作中では、悪魔から貰った? ピストルという設定なので、悪魔製の銃は我々の知っている銃とは違うのかもしれませんが……。でもほぼコルト・ガバメントっぽい見た目だしさー、うーん。作品自体は、とても躍動感の感じられる絵、およびストーリー展開で大変面白い作品です。それだけに余計な部分でケチがついて私は悲しい。


心がザワザワとして、どうしても落ち着かなかったので「GUNSLINGER GIRL」を1巻から見直す事にしました。はああああああぁ、素晴らしい、心が洗われるようです。「GUNSLINGER GIRL」は、サイボーグとなった女の子が銃をぶっ放す漫画作品なのですが、銃の描写が素晴らしく正確なのです! もしかしたらガチのミリオタの方から見たら「GUNSLINGER GIRL」ですら粗を見つける事が出来るかもしれませんが、私程度のライトな人間からみたら安心感のある描写ばかり。作品に銃火器を登場させようと考える創作者は、全員「GUNSLINGER GIRL」に学ぶべきです。今日はオートマチックピストルの描写に関して「GUNSLINGER GIRL」から学ぶべきポイントをピックアップし皆様に共有したい。


オートマチックピストルとは?

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(Wikipedia 「拳銃」ページより)

オートマチックピストルとは上記のような形をした銃の事です。オートマチックに対して回転式弾倉を持つリボルバーという拳銃も存在します。ルパン三世で言ったら、次元大介の持っている銃がリボルバー、ルパンの持っている銃がオートマチックです。装填可能な弾数が多いといったメリットもあり、現在ではオートマチックピストルの方が主流となっています。今後の項目で頻出するので、いくつか用語を覚えてください。オートマチックピストルには、前後に稼働するスライドというパーツがついています。このスライドが前後する事で、弾を撃った後に残るケースである薬莢を排出、ハンマーのコック(倒す事)、次弾の装填までを行います。ハンマーは、トリガーを引くとパチンッと弾薬のお尻を叩いて火薬に火を付けるためのパーツです。発射される弾薬を装填する場所の事を薬室と呼びます。


ハンマーの位置

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(著:藤本タツキ、チェンソーマン 3巻 および 著:相田裕、GUNSLINGER GIRL 13巻より)

これは「チェンソーマン」で気になった点その1です。「チェンソーマン」と「GUNSLINGER GIRL」でのハンマーの位置にご注目ください。発砲前後の違いこそありますが、どちらも銃が発射可能であろうシーンです。「チェンソーマン」ではハンマーがコックされておらず、「GUNSLINGER GIRL」ではハンマーがコックされています。結論を書きますと、ぶっ放す直前はハンマーがコックされている方が自然です。


オートマチックピストルを撃とうとした場合、まず手でスライドをシャコッと1回後ろに引く必要があります。それによって、初弾が薬室に装填され、スライドに押されてこのタイミングで一緒にハンマーがコックされます。しかるのちにトリガーを引くと弾が出る。初弾を発射後もスライドが一回前後しますので、またハンマーがコックされるのです。このようにオートマチックピストルの場合、弾を発射する直前は常にハンマーがコックされていた方が自然なのです。


「チェンソーマン」のおばあちゃんが握っているこの銃ですが、形状から有名なコルト・ガバメントに見えます。コルト・ガバメントは、シングルアクションという機構を採用しているため、ハンマーがコックされていないと弾は出ません。なので、このおばあちゃん、今にもぶっ放しそうな雰囲気ですが、実際に撃つには、この後にわざわざ親指でハンマーをコックしないといけない。ちょっと不自然ですね。


この指摘に関して「自然」「不自然」とか断定的ではない、ふわっとした単語を使ったのには理由があります。銃によってはハンマーがコックされてなくても弾が出せる場合があるためです。ダブルアクションという機構を採用している銃の場合、ハンマーがコックされていなくても発砲可能です。コルト・ガバメントは、シングルアクションと書きましたが、実はコルト・ダブルイーグルというダブルアクションのモデルが存在します。そのため、おばあちゃんが握っている銃が、もしコルト・ダブルイーグルであったら問題ない描写となるのです。でもそうだったら、そうだったで


「なんでこのおばあちゃん、全然売れなかったマイナーなコルト・ダブルイーグル持っているんだろう?」

という新たな疑問が出てきそう。だから繰り返しになりますが、撃つ直前はハンマーがコックされていた方が自然なので大人しくコックさせておくべき(ダブルアクションでもコックされていてOK)。

※ ハンマーの代わりに、ストライカーというパーツで弾薬を撃発する機構のオートマチックピストルも存在します。ストライカーを採用した銃は、ハンマーと違い外部からストライカーの位置は見えません。


ホールドオープン

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(著:藤本タツキ、チェンソーマン 4巻より)

これは「チェンソーマン」で気になった点その2です。 弾が切れているのに気づかずにカチカチやっているシーンですね。よくある、よくある。よくあるんだけど、止めといた方がいい。 これはオートマチックピストルの描写でやってはいけない表現のトップ・オブ・トップではないかと思う。「状況開始」の誤用と同じで、誰かがどこかで間違って、それが代々引き継がれている案件な気がする。悲しみの連鎖はそろそろ断ち切らねばなりません。


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(Wikipedia 「M1911」ページより)

オートマチックピストルは、弾を打ち尽くすと、スライドが後退したままの状態でロックし元の位置に戻らなくする「スライドストップ」という機構があります。この状態を「ホールドオープン」と呼びます(上記のスクリーンショットの状態)。なんでこんな事をするかと言うと、まずリロード(再装填)を素早く行うため。ホールドオープン状態だと、マガジンを入れ替えて、スライドロックを解除すればもう射撃可能な状態となります(スライドを引く手間が省ける)。もう一点は、弾切れを射手に伝える機能です。スライドが戻らなくなって、明らかに見た目が変わるので弾切れが一目瞭然となります。カチカチするまでもない。


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(著:相田裕、GUNSLINGER GIRL 1巻より)

「GUNSLINGER GIRL」ではちゃんとホールドオープンの描写がありました。上のコマですね。このシーンは、銃がホールドオープンして、残弾ゼロとなったので、もう一丁の銃を取り出してぶっ放す所です。素晴らしい、残弾が無くなるシーンとはかくあるべきです! ただ、彼女達はプロフェッショナルだから、ホールドオープン=残弾ゼロ という宇宙の真理を知っていたという考え方も出来るかもしれません。なので射手が初めて銃を触ったようなズブの素人だった場合は、かろうじてカチカチしてもいいかも。それでも心無いミリオタからの


「カチカチするとかないわーw どう見てもホールドオープンしてるじゃん。ホールドオープンは残弾無しって小学校で習わなかったの? 」

という余計な指摘を避けるためにも、カチカチは厳に慎むべきです。

※ スライドストップは近代的な銃には、ほぼ搭載されている機構です。ですが、稀にスライドストップ機構が存在しない銃(M1934など)もあるので注意。


ティルトバレル式ショートリコイル

「チェンソーマン」の描写をくさすのはここまでとします。以降は「GUNSLINGER GIRL」のこの描写がかっこいいねって奴を紹介したい。まずはティルトバレル式ショートリコイル。 ティルトバレル式ショートリコイルを意識した作画をすると、とてもいいと思います。 バレルはガンガン、ティルトさせていくべきなのです!


なんのこっちゃという感じだと思いますので、雑に説明させてください。オートマチックピストルの動作って、撃発した後に一瞬だけスライドの後退を遅らせる必要があります。そうしないと薬室から高圧のガスが漏れ出して危ないから。その一瞬遅らせるための機構のうちの一つが「ティルトバレル式ショートリコイル」というわけです。スライドの溝にバレル(銃身)が引っかかり、スライドの後退が遅れる。一瞬の後に、銃身がティルト(傾く)して引っかかりが外れるという仕組みです。


結果的にどうなるかと申しますと、「ティルトバレル式ショートリコイル」を採用した銃の場合、スライドが下がると銃身が僅かに上に傾いた状態になります。


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(著:相田裕、GUNSLINGER GIRL 2巻より)

上記の「GUNSLINGER GIRL」の画像をよくご覧ください。ほらほら、ちょっと銃身が上に傾いてますよね? これは作画ミスでもなんでもなく、意図的に傾けているのです。完全に分かっている勢をニヤリとさせにきてます。ただ、注意して欲しいのは、なんでもかんでも傾ければいいってわけじゃないという点。「 ティルトバレル式ショートリコイル」だったらって話ですよ。Wikipediaで参考にした銃を調べて「作動方式」の欄に「ティルトバレル式ショートリコイル」って書いてあったら傾けてOK。


トリガーに指は絶対にかけない

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(著:相田裕、GUNSLINGER GIRL 2巻より)

この画像は大変素晴らしいです。皆さんもそうは思いませんか? 描かれているヘンリエッタとトリエラがかわいいとかそんな話じゃないですよ。かわいいのは確定として、注目点はそこではなくトリガーの部分です。トリガーに指をかけず、まっすぐに伸ばしています。なんと素晴らしい!


海兵隊でも自衛隊でもなんでもいいですが、YouTubeで実銃を扱うプロフェッショナル達の動画を見てください。銃を携行している間は、絶対にトリガーに指はかけていないはずです。トリガーに指をかけるのは、まさに発砲する直前も直前から。いたずらにトリガーに指をかけようものなら上官にぶん殴られます。


銃器の安全な取り扱いのルールに「全ての銃は、常に弾薬が装填されている。 (All guns are always loaded.)」というものがあります。トリガーに指をかけないのも、この考え方の延長線上にあります。たとえ弾薬が装填されておらず安全だと知っているとしても、常に弾薬が装填されているものとして、トリガーに指はかけてはなりません。万が一に意図せず弾薬が装填されていた場合、誤射をする危険性があるためです。事故はいつだって過信から生まれるのです。


これからの話をしよう

おわかりでしょうか? 「GUNSLINGER GIRL」を読む事で、銃火器に関する勘違いも治せて、かっこいい描写方法を学べ、安全な銃の取り扱いまで学ぶ事が出来るのです。しかもこの「GUNSLINGER GIRL」は漫画としてもゲロ面白い。一石二鳥にもほどがある。全人類が読むべき良書です。


さて、私は冒頭で「チェンソーマン」の銃の描写は正確性を欠いていると指摘しました。この問題は「チェンソーマン」の作者である藤本タツキ氏に対して勉強不足であると糾弾すれば、はたして済む話なのでしょうか? 私はそうは思わない。何故ならこれは、藤本タツキ氏だけの問題ではないからです。


この問題は、日本人の英語力と似ています。日本人の英語力は、世界的に見て低い水準です。読み書きはいいとしても、喋ることは絶望的。でもその原因は、個々人の努力が足りないからではなく、リスニングとスピーキングを軽視した日本の英語教育にある。銃の場合もまったく同じで、日本人全体として銃の知識が圧倒的に不足しています。だって、身近に銃があるわけではないし、教えて貰ってもいないから。これは教育の敗北なのです。根本的な解決には、義務教育で教えるしかない。小学校の教科に追加して、国語、算数、理科、社会、GUNで行きましょう。教科書はもちろん「GUNSLINGER GIRL」全15巻で。

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